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ナーローパの誕生


この部分は四つの章から成る。

(1)場所
(2)ナーローパの生まれた高貴な家系
(3)ナーローパの王家の両親の特殊な特徴
(4)ナーローパの誕生の不思議な詳細

 (1)sTon-gsum mi-mjedと呼ばれる、わたし達の宇宙には、二十五の階層(1)が重なり合っていて、原初の覚者Gans-can mtshoの手のひらに乗っている。十三番目の階層には、四つの大陸があり、その内の最高のものが、わたし達人間の世界である。ここには、何百万もの町の中心に、東インドのシュリーナガラという地区の'Dzam-buの町がある。そこには、地上の精妙な喜びを得る手段を持っている王の宮殿があった。ここでナーローパが生まれた。
[注1:「アビダルマコーシャ」, 3. 2(ルイ・ド・ラ・ヴァレ・プサンの翻訳)を見れば分かるように、普通は二十四の階層を数える。二十五という数は特殊な数え方によるもので、二十四に、全体を一つの別なものとして加えたからであろう。]
 (2)この国には、多くの階級があった。王族、貴族、バラモン、市民、平民などである。その中で、最も優れた人であり、(大地にしっかりと根をはった木のように)高名な家の中心となる柱である、ナーローパは、シャーカ族の王家の家系に生まれた。大昔、とは言ってもこのカルパのことであるが、この一族は、Man-pos bkur-ba(マハーサッマタ)に率いられていた。その直系の王達は、'Ed-mdzes(ローチャ)、dGe-ba(カルヤーナ)、dGe-mchog(ヴァラカルヤーナ)、bSo-sbyon-'phags(ウポーシャダ)、sPyi-bo skyes(ムールダジャ)、mDzes-pa-can(チャール)、Ne-mdzes-'od(ウパチャール)、mDzes-ldan-dpal(チャールマント)、Leg-skyes(スジャータ)、ゴーウタマ、Bu-ram-shin(イークシュヴァーク)、bSod-nams skyes(プンヤジャータ)、dBan-phyug grags-pa(イーシュヴァラキールティ)、bSod-nams rtse-mo(プンヤシカラ)、Yeshes rgyal-mtshan(ジュニャーナドゥヴァジャ)、bSod-nams grub(プンヤスィッダ)、bSod-nams bkra-shis(プンヤマンガ)、blaSod-nams grags-pa(プンヤキールティ)、Zi-ba go-cha(シャーンティヴァルマン)である。

 (3)ナーローパの父は、偉大な王Zi-ba go-cha(シャーンティヴァルマン)であった。この王は生まれながらにして、大小全ての幸運な特徴を備えており、優れた性格を有しており、偉大な分別する認識の光が、時々身体から発された。彼が結婚したのは、dPal-gyi blo-gros(シュリーマティー)といって、偉大な王sKal-ldan grags-pa(シュリーマトキールティ)の娘で、この人の功徳は前生で積まれたものであった。この二人は、一緒に、国民に、立派に暮らしなさいと勧めた。
 この王と王妃は、全てのふさわしい機会に、断食をし、償いの行為を行い、常に最も崇高な方を崇拝していた。二人は悪を捨て去り、もっぱら善行のみを行った。この二人には、娘が一人、王女dPal-gyi Ye-shes(シュリージュニャーナー)、しかいなかった。いくら努力しても息子が生まれなかったので、二人は霊的な助言者であるGrags-pa'i blo-gros(ヤショーマテイ)をその独居から招き、彼の超自然的な洞察力で、うまく行かない原因を突き止めてくれないかと頼んだ。彼は、「三宝に帰依すべきです。そして、最も崇高な方は失敗するということはないので、解脱した態度1を養い、祈りを唱え、最高の崇高な方であるグルと、守護神と、ダーカ2と、教えの守護者に、大量の供養をしなさい。本当の敬虔さと敬意をもってこれを行えば、望みが叶います。」と言った。そして、自分の独居に戻った。
[注1:特に、わたしの「解放の宝石の王冠」112頁以降を参照のこと。
注2:「シュリー・ダーカールナヴァマハーヨーギニータントララージャ」によると、ダーカは、神秘的なものの解明と、超越した認識を意味するジュニャーナと、同義である。人格化は事実に基づくというよりは、象徴的なものである。Dkt 58bには、この言葉は、「実相の広がりの上を移動する識別のある認識」と説明されている。]
 そこで、王と王妃は、礼拝を行う素晴らしい場所をたくさん作るように命じた。そして、二人が、大いに供養し、敬虔さと敬意をもって、祈りを捧げると、栄光あるナーローパは、一生で解脱をするための、特殊な身体が必要だということを思い出して、王妃である母シュリーマティーの子宮に入った。
 その夜、彼女は夢の中で、不可分の空nothingness3と至福の光輝くヴィジョンを見て、それによって、国全体が、輝く光に包まれて、見渡せた。翌朝、王妃が王に、その夢のことを語ると、王は喜び、「一つの魂が君の子宮に、仮住まいをした。その魂は、最も崇高な方の恵みによって、優れた魂になるだろう。」と言った。そして、二人は最も崇高な方に、最高の供養をし続け、やがて、子供が生まれた。
[注3:「ston-nid,シューンヤター」の訳語として、'emptiness' や 'void' ではなく、'nothingness’を選んだ理由につては、ノートB、***頁を見よ。]
 (4)九番目の月の、前半の十番目の日の早朝(これは火の雄の竜の年(A.D.1016)の四番目の月にあたる)、sa-ga(ヴィシャーカー、アルパ・リーブラエ)の月の宿(しゅく)の下で、空に雷鳴が響きわたり、大地が揺れ、不思議な前兆である光線が現れた。
 大小全ての幸運な特徴を、身体に備えた男の子が生まれると、王と王妃は、深い信仰心から、バラモンのgSan-ba'i blo-gros(グフヤマティ)を呼びにやった。彼は、生まれたばかりの王子をよく見て、こう言った。
本当に、偉大な奇跡である。この崇高な男の子は
シュッドーダナの息子のようである。
もしこの子が宗教生活を送らなければ、世界中の統治者になるであろう。
この子はスィッダールタ王子のようである。
 このように、彼は予言をし、多くの祝福の言葉を語り、その男の子をKun-tu bzan-po(サマンタバドラ)と名付けた。
 幼少時より、この王子は頭の回転が速く、大いなる智慧を有していた。普通の子どもの持っている欠点に悩むこともなく、最も崇高な方を信奉していた。超自然的な洞察力を有していたので、自然と前生の出来事を語ることがあり、また、将来自分は、これこれの特質をこの世で備え、これこれの行為を行うであろうと宣言した。彼は、まさに、数々の予言で語られている、崇高な魂としてやって来たのである。
 彼の両親は、崇高な教えが大いに気に入っていたが、息子が一人だけでは、家系が途絶えてしまうのではないかと恐れていた。そこで、王は、年若い王子が読み書きを覚えないように、全力を尽くした。にもかかわらず、その少年は、隠れて読み書きを覚え、難なく学者になった。彼は、法の光によってのみ輝いている生活を送ったので、世界のいたる所で有名になった。