感染症防御の手引き
(A型インフルエンザ及びその類似症状を示す感染症の予防と治療)




A型インフルエンザ対策の必要性


 A型インフルエンザの新型ウイルスが出現すると、世界的なインフルエンザの大流行が起こります。1918年のスペインかぜでは、全世界で2000万人以上が死亡し、日本でも1918年10月〜1919年2月までのわずか4ケ月間で26万人が死亡しました。
 インフルエンザウイルスは通常の100万倍の頻度で突然変異を起こし、しかも他のインフルエンザウイルスとの遭伝子組み替えを自分で起こすため、生物兵器のような新型インフルエンザウイルスが誕生する可能性が常にあります。新しく誕生したインフルエンザウイルスが人に対する強力な感染力と強い毒性を持っていた場合、スペインかぜの時のように日本国内だけでも数十万人が死亡する事になるでしょう。
 疫病の大流行によって社会システムが崩壊するほどの大量死を、人類は歴史の中で何度も経験してきました。人類がこの恐怖からある程度解放されたのは、「魔法の弾丸」と呼ばれる抗生物質の普及と衛生的な社会の実現の結果です。しかし貧困・戦争・大災害などにより衛生的な社会を維持できない状況では、疫病の流行が繰り返されています。
 そして細菌には劇的な効果を示す抗生物質も、ウイルス感染症には役に立ちません。そして現代日本のような衛生的な社会でも、空気感染する病原体の流行を止めるほど衛生的ではありません。事実、インフルエンザという疫病はいまも大小の流行を繰り返しています。このインフルエンザが遺伝子組み替えによって、人に対する強力な感染力と強い毒性を持った場合、スペインかぜの再現が起こるでしょう。それがもっと小規模な1957年の香港かぜの再現だとしても、日本だけで1万人近くが死亡するのです。


新型インフルエンザの発生の事実


 1997年3月から、香港の鶏のインフルエンザウイルスが人に流行し始め、そして12月に入って感染者が増え、2名が死亡し1名が重体です。この事態にWHOは「緊急警告」を世界の保健機関に出し、警戒を呼び掛けています。この新型インフルエンザウイルスはA(H5Nl)という人類が経験したことのないタイプです。人類はこのタイプに対する免疫がなく無防備です。
 このウイルスは毒性は強いが、いまのところ感染力はまだ弱いようです。インフルエンザウイルスはその激しい遺伝子の変化する能力により、流行途中でも毒性や感染力が変化します。新型インフルエンザウイルスが突然変異や遺伝子組み替えにより強い感染力を持った場合、今世紀四番目の大流行になるでしょう。
 それが何時起こるのか私達には予測できません。しかし、私達はその対策を用意する必要があります。


A型インフルエンザ対策の実際


予防

A.インフルエンザウイルス予防薬
 A型インフルエンザウイルスの複製を抑制する合成サイクリックアミンとして「アマンタジン」とその低毒性の誘導体の「リマンクジン」が開発されています。「アマンタジン」は、日本ではパーキンソン病や脳梗塞の治療薬として広く使われていますが、インフルエンザの予防・治療には保健適用が認められていません。
 「アマンタジン」は内服開始後24時間以内に有効血中濃度に達します。その地域でのインフルエンザの流行期間中、通常4〜8週にわたり予防投与を続けることが推奨されています。
 「アマンタジン」は、投与量100mg/dayで十分に血中濃度が上昇します。副作用の防止の面からもこの量が適当とされています。痙攣性の病気を持っている患者にはインフルエンザの予防を目的としての投与は禁忌です。また腎臓の機能が低下している場合も、血中濃度が上昇し副作用が出る可能性があります。
 副作用としては不眠・嗜眠・めまい・食欲低下などです。これらの副作用は内服を続けると消えることが多く、内服を中止すれば消える良性のものです。

B.インフルエンザワクチン
 インフルエンザワクチンは、流行しているウイルスのタイプに近いワクチンほど効果を示します。ある程度ウイルスのタイプが近ければ、感染した場合でも重症化の防止するのに効果があります。特にインフルエンザに免疫のない幼小児には効果的です。
 インフルエンザワクチンは接種後、14日後に抗体が上昇し効果を発揮します。したがって、流行がその地域で始まった時点での予防接種は、2週間近い無効期間があります。この無効期間を「アマンタジン」の内服などで、感染の予防をする必要があります。
 接種を受けるかどうかは、ワクチン注射のリスクを検討し決断してください。
C.呼吸器粘膜の保護
 インフルエンザウイルスは流行期になると、電車・バス・繁華街・学校などの雑多な人が密集する閉じられた空間の中を浮遊しています。人がそれを吸い込むと鼻・のど・気管支などの呼吸器粘膜の上皮細胞に付着します。粘膜に付着したウイルスは20分くらいで細胞内に侵入します。
 インフルエンザウイルスは体温より低い温度が増殖に適しており、高温では不活性化されます。そのため呼吸器粘膜が冷やされていると、細胞内に侵入したインフルエンザウイルスが増殖する好条件になります。また呼吸器粘膜の免疫システムも、低温では機能が低下します。
 インフルエンザウイルスは乾燥した空気の中の方が、長く増殖力を維持できます。そして暖房などによってさらに乾燥した室内の空気は、呼吸器粘膜の機能を低下させます。この状態でインフルエンザウイルスが付着し、その後に戸外の冷たい空気で呼吸器粘膜を冷やすことは、絶好の条件をウイルスに与えます。
 したがって、この条件を成立させないことは、インフルエンザの感染防御に有効です。具体的には以下のような対策になります。

1.マスクの着用
 「インフルエンザウイルスは、マスクのガーゼを通過するのだから、マスクでかぜを防げない」という通説が流布されています。しかし、マスクはウイルスが呼吸器に入らないようにすることだけが目的ではありません。上に述べたように、呼吸器粘膜を通る空気を湿った暖かい空気にすることも大きな効果があります。この目的のためには、鼻の形にフィットするように針金が入ったタイプが適しています。
 また既にインフルエンザに感染した人は、ウイルスを撒き散らさないために必ずマスクを着用します。

2.暖房における加湿器の併用
 空気は加熱されると相対湿度が低下します。0℃近い空気が、20〜30℃に加熱されるとカラカラに乾いてしまいます。暖房をする場合は、超音波加湿器などを使って室内の乾燥を防ぐ必要があります。
 超音波加湿器に使用する水に、抗ウイルス性のある生薬抽出物などを加えることによって強力な感染予防も可能です。具体的には加湿器の水にエビガロカテキンを0.1%の濃度で加えます。

3.人の集まるところには行かない
 その強力な感染力のために、ひとつの地域でインフルエンザが流行するのは5〜6週間です。したがって可能であれば、流行期間は電車・バス・繁華街・学校などの雑多な人が密集する閉じられた空間を避けることは、極めて有効な感染予防になります。特に病院は最大の注意をする必要のある最も危険な空間です。
 またそのような空間では、手で自分の口や目などの粘膜に触れないようにします。また触れる前に必ず手を良く洗います。そのような空間から帰った後は、必ず手を良く洗います。


D.体力及び免疫機能の保全と強化
 免疫機能に必要な栄養素を、ふだんから十分とるように心掛けます。具体的には、自分のいる地域でインフルエンザが流行している間は、「販売用人参レモン」や「ソーマミックス」を2〜4日に1袋のペースで飲むことは効果的です。ゼラチンゼリーやハイビスカスティーなどの併用も有効です。
 また、ユーカリやティートリーは抗ウイルス作用があり、特にティートリーは免疫機能を強化するするので有効です。使い方は、ハンカチやマスクに付けて吸入したり、室内でアロマバーナーなどを使い気化させることも効果的な予防法です。


E.抗ウイルス生薬の服用
 抗ウイルス性の生薬は、ウイルスを不活性化するタイプと免疫機能を強化するタイプがあります。この二つのタイプの併用が最も効果的です。

1.ウイルスを不活性化する生薬
 ポリフェノールの多くは抗菌・抗ウイルスの作用がありますが、カテキン類はその中でもインフルエンザウイルスに対して強力な不活性化作用があります。カテキンは煎茶や番茶(正しくは四番茶で緑色)に多く含まれますが、緑茶にはカフェインがコーヒー以上に含まれています。カフェインは薬物による一時的精神の高揚とともに、体内のビタミンB1を消耗します。Blは不足しやすいビ夕ミンで、軽度の不足でも神経過敏などの精神的異変が生じます。したがってインフルエンザ対策には、カフェインを除去したカテキンエキスを使用します。
 具体的には、1日に500mg〜1gを数回に分けて取るようにします。注意として、カテキン類はタンパク質と結合しやすいので、タンパクを含む食品とは時間を離して取るようにします。
 また服用以外にも、インフルエンザの流行期間は外出から帰った時などに、カテキンエキスによるうがいや鼻腔の洗浄も効果的です。紅茶ポリフェノールのチアフラビンもウイルスに効果があるので、紅茶の出がらしなどを使用してもかまいません。

2.免疫機能を強化する生薬
 エキナセアエキスは免疫機能を強化する生薬の中でも、インターフェロンの強化という点で特異な生薬です。インターフェロンはその非特異的な作用により、全身の抵抗力を増大させます。
 感染症の予防と健康維持を目的とした場合は、1回に100〜250mgを1日3回服用します。長期の服用は、6〜8週間の使用後に1〜2週間の休息期間を入れます。


かぜ症候群からのA型インフルエンザ感染の判断


 いわゆる「風邪」症状は、A型インフルエンザウイルスによる感染だけではなく、各種ウイルスや細菌によっても発症します。原因となる病原体によって治療法は異なります。したがって「風邪」症状を以下の表で、A型インフルエンザによる感染かどうかの判断をします。ただしA型インフルエンザも、症状の特徴はウイルスのタイプによって若干変化します。

項目A型インフルエンザ普通感冒
発生状況流行性散発性
発熱の経過急激緩やか
(体温)高熱(39〜40℃)平温か微熱(37℃台)
優勢な症状全身症状上気道(鼻・のど)症状
(悪寒)強い軽い
(全身の痛み)強い(腰・関節・筋肉)なし
(眼症状)結膜の充血なし
(上気道症状)全身症状の後に続く明瞭に先行する
(重病感)あるない
症状の経過一般に短い比較的長い
合併症気管支炎・肺炎中耳炎・副鼻腔炎


感染後の処置


解熱・鎮痛剤の使用

1.発熱の意味
 一般的な風邪の治療は、対症療法として解熱・鎮痛剤の使用が中心です。しかし、インフルエンザに感染させた動物に解熱剤を投与した場合と放置した場合の、基礎医学の実験報告があります。そこでは解熱剤を投与した動物が多く死亡し、肝臓やリンパ節などに著しいウイルスの増殖が観察されています。
医療の現場での比較研究でも、解熱剤の投与はインフルエンザの治癒(ちゆ)を遅らせるという結果が出ています。
 このようにインフルエンザにおける発熱は、ウイルスの増殖を抑えようとする体の防御反応であり、解熱剤の使用は自然治癒力を妨げます。体温が38℃を越すような高温の場合でも、解熱剤を使用しないほうが治癒は早まります。また症状と体質にあった漢方処方の投与は、インフルエンザのようなウイルス感染症でも良好な経過を示します。
 発熱・発汗により水分の補給が必要な場合は、発熱・発汗用経口輪液(ORS)を与えます。


基本的な発熱・発汗用ORSの作り方


    砂糖            40.Og
    食塩            1.Og
 湯冷ましか浄水器の水1リットルに対し、上記の配合量を溶かしてORSとする。
 応用として、発熱時に消耗するビタミンを配合したORSも検討する。
 スポーツドリンクなどでも代用可能。

2.バファリンの小児における危険性
 熱けいれんの予防に解熱剤は無効です。それでも医師がインフルエンザの小児に解熱剤を処方する理由は、親は子供の発熱を異常に心配するためです。小児に解熱剤を処方するような発熱の目安は、41℃を超えるような高体温の場合です。その場合でも副作用の少ないアセトアミノフェン(商品名ピリナジン、その他)を最初に用います。
 小児がインフルエンザに感染した場合、「ライ症候群」と呼ばれる合併症の危険があります。症状は嘔吐・意識障害・けいれんなどの脳症で、19才以下の年齢(特に幼小児)に多く見られます。特に解熱剤としてアスピリンを投与した場合、高率で発生します。バファリンなどの市販薬もアスピリンの入った解熱剤です。インフルエンザの解熱には使用してはいけません。


咳(せき)・痰・下痢の意味


 咳・痰・下痢などは体内に入った菌を排出しようとする生体の防御機構です。発熱と同じように出来るだけ止めない方が治癒は早まります。しかし、激しい乾性の咳が長時間続き、体力の消耗が激しい場合は医薬品の使用も検討します。また、激しい下痢が長時間止まらずナトリウム欠乏性の脱水が生じる危険性のある場合は、下痢用経口輸液(ORS)を補給し医薬品の使用を検討します。

           基本的なORSの作り方
 ブドウ糖         40.Og(または砂糖 20.Og)
 食草           3.Og
 重曹(炭酸水素ナトリウム)2.5g(またはクエン酸Na 2.9g)
 塩化カリウム       1.5g
湯冷ましか浄水器の水1リットルに対し、上記の配合量を溶かしてORSとする。
応用として、腸管の水分吸収を促進するアミノ酸を配合したORSも検討する。


肺炎などの合併症(がっぺいしょう)


 高熱、筋肉痛、全身倦怠といったインフルエンザの典型的な初期症状から、咳や呼吸囲難が出現するのは、肺炎に進行したことを意味します。インフルエンザウイルスの増殖による純ウイルス性肺炎は、痰が少量で色は透明か白色です。細菌混合型肺炎の場合は、痰が黄色か緑色です。二次性の細菌性肺炎の場合は、症状が軽くなってから数日〜1週間後に発熱、咳、呼吸困難が出現し膿性の黄色や緑色の痰がでます。細菌の関与する肺炎には抗生物質を使用します。


抗生物質の使用


 インフルエンザの治療で使われる抗生物質は、肺炎などの細菌によるインフルエンザの合併症の予防や治療として使われます。

1.気管支炎・肺炎などの合併症
 インフルエンザウイルスなどによって気管支の機能がそこなわれると、気管の中に侵入してきた細菌を排除出来なくなります。この状態になると、口の中にいる菌が気管に付着し増殖します。
この細菌による感染は一般に風邪をひいてから2〜3日後に起こることが多く、「いつまでも熱が下がらない」・「治ったと思った風邪がぶり返した」といった場合は、「肺炎球菌Jによる感染を疑う必要があります。
 感染後の症状は「急性上気道感染症(鼻水・のどの痛み)」→「急性気管支炎(咳)」→「肺炎(呼吸困難→重症では死亡に至る)」→「敗血症(高熱・寒気・血圧低下・ショック症状)」とより深い部分に感染が進行して行きます。
また、肺炎球菌は「化膿性髄膜炎(高熱・嘔吐・意識低下・けいれん)」や、「中耳炎(耳の強い痛み・耳だれ)」などの感染症も引き起こします。

2,適切な内服用抗生物質の選択
 肺炎球菌・インフルエンザ菌などの肺炎菌による合併症が疑われる場合、ペニシリン系のアンピシリン(商品名ビクシリン、ペントレックス、ソルシリン)が安全性も高く、第1選択薬になります。しかし日本では風邪の治療に抗生物質を多量に使用してきたため、抗生物質の効きにくい「ペニシリン耐性肺炎菌」が多くなっています。したがって、最初からアンピシリン耐性菌用のペニシリン系であるスルタミシリン(商品名ユナシン)を選択する方法もあります。
 もし医師に処方された抗生物質を2〜3日飲んでも良くならない場合は、再度受診して抗生物質を替えてもらう辛が必要です。
この場合、ニューキノロン系の中でも肺炎菌に効くレポフロキサシン(商品名クラビット)などが候補になります。しかしニューキノロンは副作用が複雑で、小児や胎児への安全性が確立していません。小児には安全性の高いニューマクロライド系のクラリスロマイシン(商品名クラリシッド、クラリス)や、新世代セフェム(商品名バナン、セフゾン、フロモツクス)が候補になります。

3.適切な内服用抗生物質の使い方
 同じ抗生物質を5日以上飲み続けると、体内で抗生物質に耐性の菌が増殖する「菌交代現象」を起こす可能性があります。したがって、症状が良くならないまま、同じ抗生物質を飲み続けたり、新しい抗生物質を追加していってはいけません。
 症状が良くなっても、体内の細菌はすぐに消えていきません。抗生物質は、症状が治まってもすぐに止めず、さらに2〜3日は飲み続けます。


個人で出来る基本的処置


1.
 自然治癒力を最大限に発揮させるために、体力の消耗するような行為を避け安静に努めます。
2.
 マスクの着用や室内の暖房と加湿などにより、冷たい空気や乾いた空気から呼吸器粘膜を保護します。
3.
 温かい食事や飲み物をとり、布団にくるまるなどの物理的保温に努めます。耐えられる熱さの蒸気を、蒸気吸入器などで吸入することも、強力にウイルスを不活性化します。
4.
 食事は消化が良く、温かくて水分の多いものをとります。お粥・野菜スープ・うどんなどが適しています。栄養の取り過ぎや消化の悪いものは消化器官に負担をかけるので、逆に体力を消耗します。


伝統医学による治療


 インフルエンザのようなウイルス感染症は、西洋医学では解熱剤や合併症予防の抗生物質の投与しかありません。ウイルス感染症にはアロマテラピー・植物療法・中医学(漢方)などが有効です。

A.アロマテラピーによる治療
 インフルエンザの精油による治療は、2種類の処方を以下に載せます。どちらもフランスで医師が使っている処方です。

1.ユーカリ・ラディアタまたはラバンサラを、1日3回、3〜5滴を胸部や背中に塗布する。
2.ユーカリ・ラデイアタ3mlとラパンサラ5mlを調合する。これを1日4回、5〜6滴を胸部や背中に塗布する。または1日5回、4滴を土踏まずに塗布する。

 一般に売られているエッセンシャルオイルは、アロマテラピー用と自称していても、多くはただのフレグランスで役に立ちません。治療に使う精油は信頼できるブランドを選びます。例として「K.S.A.International Ltd」・「PRANAROM」などがあります。

B.植物療法による治療
 ドイツでは、薬事法に基づいて植物療法による医師の治療が行われています。

1.エキナセア
 エキナセアはインターフェロンの増大により、インフルエンザの症状の軽減や細菌による合併症の防止に有効です。感染後の治療を目的とした場合は、1回に300〜500mgのエキナセアエキスを1日3回服用します。

2.セイヨウサンザシ
 重症のインフルエンザや肺炎に移行した場合、心臓の衰弱が見られる場合があります。
この場合、セイヨウサンザシの浸出液の服用が有効です。セイヨウサンザシの葉や花をブレンドしたハーブティーを利用するのが簡便です。
 用法は、1杯分(2g前後)のセイヨウサンザシ(葉と花のブレンド)に熱湯を注ぎ、10分間抽出したものを、朝夕2回服用します。

C.中医学による治療
 カゼ症状の漢方による治療は、その症状により各種の漢方処方を使い分けます。症状と漢方処方の関係を以下に載せます。以下に載せる処方は、主にインフルエンザの急性期や亜急性期にもちいます。慢性化して咳や痰が抜けないときは、「清肺湯」などをもちいます。

1.風寒表証のカゼは、発熱し、悪寒が強く寒がり、のどの渇きがありません。
・汗が出る場合は「桂枝湯(けいしとう)」をもちいます。市販薬の商品名は「桂枝湯エキスJなどです。
・汗が出ない場合は「葛根湯(かっこんとう)」をもちいます。市販薬の商品名は「葛根湯エキス」・「カコナール」・「カッコンS」などです。
・汗が出ず、咳が出て呼吸が苦しい場合は、「麻黄湯(まおうとう)」をもちいます。市販薬がないので、日本中医薬研究会会員店などの中薬専門の漢方薬局で処方してもらいます。

2.風熱表証のカゼは、発熱し、悪寒が無いかあっても弱く、のどが渇きます。
・汗が出ないか少し出る場合は「銀翹散(ぎんぎょうさん)」をもちいます。市販薬の商品名は「銀翹錠」・「中薬銀翹解毒片」・「天津感冒片」などです。
・汗が出ない場合は「白虎湯(びゃっことう)」や「柴葛解肌湯(さいかつげきとう)」をもちいます。大正に流行したスペインカゼでは、浅田宗伯による「柴葛解肌湯」の加減が有効でした。市販薬がないので、日本中医薬研究会会員店などの中薬専門の漢方薬局で処方してもらいます。
・汗が出ず、咳が出て呼吸が苦しい場合は「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)」をもちいます。市販薬の商品名は、「麻杏甘石湯エキス」・「マキョーS」・「麻杏止咳錠」などです。


回復後の注意


1.呼吸器粘膜の回復は遅い
 インフルエンザに感染すると呼吸器粘膜の繊毛が破壊され、粘膜に付着したホコリや細菌を排除出来なくなります。破壊された繊毛の機能が回復するのに数週間かかるので、その間は他の呼吸器感染症に罹りやすくなっています。この期間は、休力の消耗を避け、呼吸器粘膜の保護に努めます。

2.抗生物質を使った場合
 腸内の有用細菌は有害菌の繁殖を抑え、ビタミンなど身体に必要な物質を生産しています。抗生物質を飲み続けると、腸内の有用細菌が大きくダメージを受け、抗生物質に耐性の細菌が異常増殖します。抗生物質を飲み続けて下痢を起こす場合、多くはこの腸内細菌の異常が原因です。
 したがって、抗生物質によってダメージを受けた腸内細菌のバランスを、早く適正な状態にすることが必要です。そのためには、「新ビオフェルミンS」・「ビオスリーHi錠」などの生菌製剤を利用することが有効です。また腸内の有用細菌の増殖を助ける水溶性食物繊維を取るようにします。


急性Q熱などのA型インフルエンザ様の症状を示す感染症


 A型インフルエンザの特徴的な症状である発熱・悪寒・身体の痛みは、他の重大な感染症でも見られます。特にA型インフルエンザが流行していないのに、インフルエンザ様の症状を示す場合は、急性Q熱などの重大な感染症の可能性を検討することが必要です。
以下にインフルエンザ様の症状を示す感染症の中で、適切な治療がなされないと危険な感染症の診断と治療の情報を載せます。


急性Q熱


1.病原体と感染経路
 Q熱の病原体は「C.burnetii」というリケッチアの一種で、家畜やペット(ウシ、ヤギ、ヒツジ、ネコなど)を含む多種の動物を宿主とします。「C.burnetii」は他のリケッチアと異なり、熱・乾燥・消毒薬に対して抵抗力が極めて強いのが特徴です。そのため、エアゾールや汚染した塵埃の吸入による、呼吸器感染が多いのが特徴です。また生乳などの殺菌の不十分な畜産製品による経口感染もあります。

2.感染後の経過
 Q熱リケッチアに感染しても約半数の人は発症しない不顕性感染に終わります。発症した場合、典型的な急性Q熱では以下のような症状を示します。

     急激な発熱・高体温(39〜40℃)
     眼球後部の痛み・激しい頭痛・筋肉痛
     全身倦怠感・食欲不振
    (肺炎や肝機能の異常を伴うことも多い)

 慢性Q熱では、ほとんどが心内膜炎の症状を示しますが、慢性肝炎や慢性骨髄炎の症状を示す場合もあります。
 原因不明の肺炎・ウイルス検査陰性の肝炎・細菌培養陰性の心内膜炎・原因不明の慢性骨髄炎などはQ熱の可能性を検討すべきケースです。

3.治療
 急性Q熱は抗生物質が効果を示し、第1選択薬はテトラサイクリン系のミノサイクリン(商品名ミノマイシン)です。クロラムフェニコール(商品名クロロマイセチン)・リンコマイシン(商品名リンコシン)・リファンピシン(商品名リファジン、リマクタン)やキノロン系なども有効です。
 これらは静菌的に作用する抗生物質です。慢性Q熱への移行を抑制するため、解熱後1週間からそれ以上は抗生物質の投与を続けます。
 慢性Q熱の治療も上記の抗生物質の単独投与や併用になります。しかし慢性Q熱は抗生物質の効果は低く、治療法が確定していません。
 上記抗生物質は副作用が複雑です。小児や胎児には安全性を十分検討して投与する必要があります。


新型ツツガムシ病


1.病原体と感染経路
 新型ツツガムシ病の病原体は「R.tsutsugamushi」というリケッチアで、ダニの一種のタテツツガムシ、フトゲツツガムシを宿主とします。ツツガムシは全国の山地や草原に棲息します。ツツガムシ病はツツガムシの幼虫に刺されることにより感染します。ツツガムシの幼虫は肉眼では見えず、刺されてもその時は判らないことが多いようです。
 ツツガムシの幼虫が吸着する時期は、関東より北で4〜6月と10〜11月、関東以西で10〜1月です。感染者が多い職業は土木作業や林業ですが、ハイキングや山菜取りによる感染も増えています。

2.感染後の経過
 感染7〜10日後、刺し口の近くのリンパ節が腫れます。さらに数日後、発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・倦怠感などの症状がでます。熱は段階的に上昇し3〜4日でピークに達し39〜40℃になります。この頃から胴体に斑点状の発疹が見られ、次第に全身に広がります。治療が適切でないと高熱が持続し、多臓器障害により死亡する場合もあります。

3.治療
 ツツガムシ病は抗生物質が効果を示し、第1選択薬はテトラサイクリン系のミノサイクリン(商品名ミノマイシン)またはドキシサイクリン(商品名ビブラマイシン)です。
ミノサイクリンまたはドキシサイクリン2mg/Kgを1日2回、14日間内服します。これにより症状は劇的に改善しますが、使用期間が短いと再発して肝臓や腎臓に機能障害を残すことがあるので14日間は必要です。
 テトラサイクリン系が使用できない場合は、マクロライド系のキタサマイシン(商品名ロイコマイシン)の経口投与や、クロラムフェニコール(商品名クロロマイセチン)20〜30mg/Kgを1日に3〜4分割して内服するのも極めて有効です。
ペニシリン系・セフェム系・ニューキノロン系などはツツガムシ病には無効なので、これらの抗生物質で症状が改善しない場合は、ツツガムシ病を疑う必要があります。
 上記抗生物質は副作用が複雑です。小児や胎児には安全性を十分検討して投与する必要があります。