マイトレーヤ元正大師の特別寄稿

第9回
グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの詞章とチァクラの浄化

 尊師が、グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの七つの詞章を実践するようにおっしゃったことは、皆さんご存じの通りです。そして、この七つの詞章は、もともと、「タントラの七つのプロセス」と説法されており、チベット密教のニンマ派においては「七支の供養」(『虹の階梯』ラマ・ケツン・サンポ、中沢新一共著)と呼ばれる修行に対応しています。
 ラマ・ケツン・サンポによると、7支の供養の目的は以下のとおりです。


1.礼拝(帰依) 高慢を静める
2.供物(供養) 貪りや生き物に対する無慈悲を正す
3.告白(懺悔) 憎しみの感情を乗り越えようとする
4.賛嘆 嫉妬を制圧する
5.懇願 無智の愚かさを克服する
6.祈り(祈願) 誤ったものの見方に打ち勝つ
7.回向  封印(修行で得たものが漏れていくことを防ぐ)

 まず、礼拝で高慢を静めることになるのは、「グルに従う心を育てることによって、あなたは自分の中の虚栄心やうぬぼれを綺麗にぬぐい去っていくことができるのだ」とラマ・ケツン・サンポは説明しています。加えて、自分より高い存在を常に意識し、帰依・礼拝すること自体も慢心を静めることになるのだとわたしは思います。

 供養が、貪りの捨断になることはグルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの詞章の内容そのものであり、供養と貪りが正反対の行為ですからわかりやすいですね。

 次に、告白(懺悔)がなぜ憎しみの感情を乗り越える効果があるかについては、懺悔の詞章によって、過去の自分の悪業を認識すると、自分を傷付ける存在に対して、それが自己の悪業の果であることに気付きやすくなり、憎しみを取り除くことができるからだと思います。つまり、懺悔でカルマの法則を認識するわけです。

 賛嘆が、嫉妬心の制圧になるのは、嫉妬心があると他人の称賛はできないからです。ただし、グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの賛嘆の詞章では、(1)自分の功徳(2)真理を残したシヴァ大神・諸仏(3)真理を説き見本を見せるグル(4)功徳と真理を説いた諸々の大師方のそれぞれに感謝します。これは、他を単純に称賛するだけでなく、自分の功徳についても、それが他のおかげであることを感謝しており、これによって自分の功徳に慢を抱くことを防いでいると思います。つまり、自分の徳・成功は他者のおかげであるということです。こうして、賛嘆の詞章は、嫉妬と慢の双方を捨断していると思います。

 懇願が無智の愚かさを克服するとしているのは、無智とは真理の否定であり、真理の教えを説いてくださるようグルに懇願することは、それと正反対のことだからだと思います。グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの懇願の詞章でも、三界の喜びは幻で、グルの与える絶対自由・絶対幸福・絶対歓喜のみが真実であるとして、迷妄(無智)を強く捨断しようとしています。

 祈願は、四無量心の要素が出てきます。グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの祈願の詞章でも、「四つの心の状態」というのが出てきて、今まで自分に大きな恩恵を与えてくれた無数の魂のために、グルの救済を祈願します。グルの教えを求める点は、懇願と同じく、誤った見方に打ち勝つ目的があることは明らかです。

 回向は、修行の徳を他の生き物に回して、自分と他の生き物が共に覚醒を得ることを願います。修行で徳を積んでも、それを他の生き物に回向しない場合、その修行の徳は基本的に自分だけのためという考え方に陥り、いろいろな煩悩(慢、嫉妬etc.)につながりかねません。

 また、この回向を賛嘆や祈願と併せて考えると、
「自分は多くのグル方のおかげで功徳を積み、それによって真理に巡り合い、真理の実践をしている。さらに自分に大きな恩恵を与えてくれた魂は無数存在する。この修行の功徳は、恩のある彼らすべての魂に回向しよう」
という流れであるということになります(そして、他に回すことがさらなる徳となり、それがより高い真理に導かれる好循環を形成する)。
 ここには、今までの自分の徳は、他のおかげで積めたもので、積んだ徳は他に回すといった、自他の区別を滅尽しようとする意図が強く現われています。

 また、 七つの詞章は、各チァクラの浄化になっていると思われます。『ナーローパの六ヨーガ』(P22)には、「(タントラの教義によると)五つのチァクラ、それぞれのナーディーは、……(中略)……人の五つの主要な煩悩の象徴、または表現である。つまり、愛著(愛着・貪り)、迷妄(無智)、邪悪心、プライド、嫉妬である」と書かれています。また、ヨーガのチァクラ理論では、


1.ムーラダーラ・チァクラ 物欲、邪悪心
2.スヴァディスターナ・チァクラ 性欲、無智
3.マニプーラ・チァクラ 食欲、学問、才能、貪り
4.アナハタ・チァクラ 愛着、プライド、名誉
5.ヴィシュッダ・チァクラ 嫉妬、闘争、地位、権力
6.アージュニァー・チァクラ 慢(自己満足)、支配、観念
7.サハスラーラ・チァクラ 解脱


という関係がいわれています。

 ですから、グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションの詞章で各チァクラが浄化できることになります。このように、詞章を唱えるときに、その詞章の意味合い――すなわち、どんな煩悩を破壊するためのものかを意識することは効果的です。詞章を唱えるだけですと、マントラ・ヨーガ、ないしラージャ・ヨーガ(精神集中)ですが、その意味合いを考えたなら、ジュニアーナ・ヨーガの要素が加味されます。それによって、皆さんが日々悩まされている煩悩を静める効果、ブロックする効果が飛躍的に高まると思われます。

 尊師が、グルヨーガ・マイトレーヤ・イニシエーションを毎日の加行にされたこともあり、このイニシエーションを「完成された瞑想」とおっしゃっていましたが、全チァクラを浄化する効果があるとすれば、まさにそのとおりと言うことができます。

 そして七つの詞章を、毎日1回に限らず、ワークの合間に唱え、1日5回、10回と断続的に修習するなら、絶えず煩悩破壊を意識しながらワークができ、さらに効果が高くなると思います。